低いデータ レートを無効にする理由

昨今の高速なデバイスが接続されるWLAN環境では、以前までと同じ様な設計で進めてはならないと考えています。変更を検討すべき点の1つとして「データレート」が挙げられます。低いデータ レートを無効にすることです。結論から言いますと、最低データレートのベストプラクティスは12Mbps もしくは24Mbps に設定するべきです。それらの値未満のレートはすべて無効になります。これにより無線LAN環境全体のパフォーマンスが向上することが期待できます。

この記事では、低いデータレートを無効にすることでWLANのパフォーマンスが向上する理由について解説していきます。

 

レガシーデバイスの接続によるオーバーヘッドを改善

802.11bしかサポートしていないようなレガシーなデバイスでは、サポートするデータレートが1、2、5.5、11Mbpsまでしかサポートされていません。このような低速なデバイスでは、データを転送し終えるまでにかかる時間がかかってしまいます。WLAN環境はCSMA/CAに準じてデータが送られるようになります。ですので、低速なデバイスがノロノロデータを転送しだすと、他のデバイスで待ち時間が発生してしまい、WLAN全体のパフォーマンスが低下してしまいます。

アクセスポイント側の設定で「基本サポートレート」の最低値を12Mbps以上に設定することで、11bデバイスは接続出来なくなります。「基本サポートレート」とは、クライアントがAPに接続する際に、必ずサポートしていなければならないデータレートのことを指します。これは、プローブリクエスト・プローブレスポンスのやりとりの際に、お互いのサポートレートを交換し、接続できるかどうかの互換性をチェックします。11bデバイスは11Mbpsまでしかレートをサポートしていないため、アクセスポイントに接続することが出来なくなります。

この様にデータレートを調整することでレガシーなデバイスを意図的に接続させないようにすることができます。低速端末がWLANのパフォーマンスを低下させてしまうことを未然に回避することができます。

 

管理フレームトラフィックによるオーバーヘッドを改善

アクセスポイントから送信されるビーコンフレームなどの管理フレームは、設定した基本サポートレートの最低値のレートで送信されるようになります。デフォルトでは、2.4GHz帯で1Mbps、5GHz帯で6Mbpsのレートで送信されます。つまり、管理フレームは非常に低速なレートでアクセスポイントから送信されることになります。

管理フレームはSSID毎に送信されます。仮にSSIDの数を15個まで増やした場合、SSIDが1個の場合と比較して15倍の管理フレームが送信されることになります。前述の通り管理フレームは非常に低速であることから、管理フレームだけで無線帯域を逼迫させてしまう可能性があります。もし夜中など誰も無線トラフィックを発していない時間であるにもかかわらず、チャネル利用率が20%を超えているような場合は、管理フレームによるオーバーヘッドが発生している可能性があります。

これらの問題を解決する方法としては、SSIDの数を減らすことです。SSIDの推奨設定数は最大4つまでです。もしSSIDの数を減らすことが出来ないのであれば、低い基本サポートレートの値をOFFにすることです。基本サポートレートの最低値を12Mbpsもしくは24Mbpsに設定することで、管理フレームは高速なレートで送信されるようになるため、結果としてチャネル利用率を下げる効果があります。

 

マルチキャスト&ブロードキャストトラフィックによるオーバーヘッドを改善

マルチキャストとブロードキャストのトラフィックは、サポートレートの最低値で送信されます。特にマルチキャストストリームの様なトラフィック量(データサイズ&パケット数)が多い通信の場合、低速なレートで送信するとすぐにチャネル利用率を逼迫させてしまいます。可能な限り、マルチキャストとブロードキャストトラフィックが無線区間に流れてくるのをブロックすることが推奨されます。

もし、マルチキャストおよびブロードキャストによる通信が必須である場合、低いサポートレートをOFFにすることでマルチキャストおよびブロードキャストによるオーバーヘッドを低下させることが出来ます。サポートレートの最低値を12Mbpsもしくは24Mbpsに設定することで、マルチキャストおよびブロードキャストは高速なレート(12Mbps or 24Mbps)で送信されるようになります。管理フレームと同じように、チャネル利用率を下げる効果があります。

もう一つの回避策としては、マルチキャスト限定になりますが「マルチキャストtoユニキャスト変換」の機能を有効にすることです。この機能を有効にすると、アクセスポイントがマルチキャストトラフィックをユニキャストトラフィックに変換してから無線に転送するようになります。つまり、ユニキャストデータのデータレートで送信されるようになるということです。ユニキャストのデータレートは非常に高速なレートで送信されるため、チャネル利用率の値を大いに下げる効果があります。

 

カバレッジエリアを縮小させることでWLAN環境を改善

カバレッジエリアが広くなると、その分ノイズも多く拾ってしまうことになります。遠くから接続してくる低速なでクライアントデバイスの数も増えてしまいます。低いサポートレートをOFFにすることでカバレッジエリアを縮小させることが出来ます。

低いサポートレートをOFFにするということは、低度な変調方式が利用できなくなるということを意味します。低度な変調方式が利用できなくなるということは、SNRの低いクライアントデバイスからのトラフィックはデコードされなくなるということです。つまり、遠くから接続してくるSNRの低いクライアントは実質接続出来なくなる=カバレッジエリアが縮小するということです。

無線LAN環境がアクセスポイントの台数、カバレッジエリアに問題が無いのであれば、サポートレートの最低値を12Mbpsもしくは24Mbpsに設定する(低いサポートレートをOFFにする)ことが推奨されます。そうすることでカバレッジエリアが縮小するため、ノイズや遠くから接続してくる低速なクライアントデバイスの数が減り、無線LAN環境全体のパフォーマンスの改善が期待できます。

 

以上の様に、データレートがWLANにさまざまな影響を及ぼすということが理解できたかと思います。数年前では低いレートしかサポートしていないクライアントデバイスは多く存在していましたが、現在ではほとんど見なくなりました。クライアント環境に制限が無い環境であれば低いデータレートはOFFにしておくことが推奨されます。但し、工場や倉庫など未だ古いハンディターミナルなどが使われているような環境では低いデータレートを有効にしておく必要があるかもしれません。

 

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